
当院では静岡市もの忘れ検診を行っています。ご希望の方はクリニックまでご連絡ください。
認知症とは、もの忘れとの違い
脳は神経細胞の巨大なネットワークです。思考や運動・記憶など細かく神経細胞の機能が分かれており、日常生活を円滑に行うようにコントロールしています。
認知症は1993年に世界保健機関により「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」と定義されました。その後、2013年の米国精神医学会の診断マニュアルによると、「複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知の中から有意な低下があり、日常生活が阻害される場合」と記載されています。
ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断のガイドライン 1993
日本精神神経学会 DCM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 2014
もの忘れは、「名前が思い出せない」「昨日の昼間にやったことが思い出せない」など記憶障害のことです。認知症以外でも起こります。加齢に伴う自然な症状も多く

認知症の原因疾患
認知症の原因には非常に様々な疾患があります。
- 中枢神経変性疾患:アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症など
- 血管性認知症:多発脳梗塞、脳出血、慢性硬膜下血種など
- 脳腫瘍:脳腫瘍(転移性も含む)、がん性髄膜症
- 生常圧水頭症
- 頭部外傷
- 無酸素・低酸素脳症
- 神経感染症:ヘルペス脳炎、日本脳炎、HIV感染症、脳膿瘍など
- 臓器不全および関連疾患:腎不全・肝不全・心不全・呼吸不全など
- 内分泌機能異常:甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、クッシング症候群など
- 欠乏性疾患・中毒性疾患:アルコール依存症、一酸化炭素中毒、ビタミン欠乏症、薬物中毒など
- 脱髄疾患などの自己免疫性疾患:多発性硬化症、ベーチェット病、シェーグレン症候群など
- 蓄積症:遅発性スフィンゴリピド症、副腎白質ジストロフィーなど
- その他:ミトコンドリア脳筋症、進行性筋ジストロフィーなど
2013年の米国精神医学会の診断マニュアル

認知症(特にアルツハイマー型認知症)と間違えやすい病態
- 加齢に伴う生理的健忘:体験に対する部分的なもの忘れであり、進行は緩やかです。病識が保たれ、日常生活へ支障をきたすことは少ない。
- せん妄:急激に出現する精神症状で、意識障害や注意力低下がみられます。症状に強弱があり、数日で改善することも多くあります。病気や環境の変化、薬剤の影響で出現します。認知症を合併している場合もある。
- うつ病:記憶力低下や判断力低下が起こるが、永続しない。急激に出現し、抗うつ薬に反応することが多い。
- 精神遅滞:18歳以前に発症する。
- 統合失調症:多彩な症状。発症年齢が若く、認知機能は重症でないことが多い。

認知症の症状
認知症の症状は、認知機能低下自体の症状とその症状の結果おこる心理症状(BPSD)に分かれます
認知機能低下による症状
- 全般性注意障害:一度に処理できる情報が減るため、やや複雑なことを理解したり記名したり、反応したりすることが困難になる
- 遂行機能障害:仕事や家事などを段取りよく進められなくなる
- 記憶障害(健忘):新たなことを覚えられない、昔のことを覚えられない
- 失語/失書:発語・理解・復唱・読み・書きの障害
- 視空間認知障害:図の模写や指の形の模倣ができない、よく知っている場所で道に迷う、実際はないものが見える
- 失行:細かい動きができない、使い慣れた道具がうまく誓えない
- 社会的認知の障害:相手や周囲の状況を認識し、適した行動がとれない
出現しやすい症状は認知症の原因疾患によって異なります。

認知症の症状
認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptom of dementia: BPSD)
- 活動亢進:もの忘れを自覚して不安や焦燥感が出現すると、些細なことで苛立ち、不機嫌になる。進行すると、暴言や暴力などの攻撃性、徘徊など出現することがあります。
- 精神病様症状:健忘によるもの取られ妄想、被害妄想、幻覚や夜間の行動異常
- 感情障害に関わる症状:認知機能低下を自覚し、不安や焦燥を生じ、うつ状態になる。
- アパシーが係る症状:アパシーとは、自発性や意欲の低下です。情緒の欠如、不活発、周囲への興味の欠如。

認知症の段階
主観的認知機能障害
Subjective Cognitive Impairment (SCI)
ご本人は自分の認知機能の低下を自覚するが、他人には認知機能の低下が認識できない状態。例:物忘れがひどくなった自覚があるのに、周りの人は気が付かない状態。
軽度認知障害
Mild Cognitive Impairment (MCI)
ご本人やご家族に認知機能低下の自覚があるが、日常生活は問題なく送ることができる状態。健康な状態と認知症の中間。
認知症
ご本人やご家族に認知機能低下の自覚があり、日常生活に影響が出ている状態。
- 主観的認知機能障害(SCI)は40-50歳台から自覚される場合があります。主観的認知障害が、軽度認知症(MCI)や認知症に移行する割合はわかっていません。正常加齢の範囲内のこともあります。
- 軽度認知症(MCI)の5-15%の人が1年で認知症に移行する可能性があります。逆に、16-41%の人が健康な状態に改善する結果もでています。自分(またはご家族)が今どの状態なのか把握し、主観的認知機能障害や軽度認知障害から認知症に移行しないように予防することが重要です。

認知症の病型による割合
1980年台は血管性認知症の割合が高かったが、徐々にアルツハイマー型認知症が増加しています。2010年台前半には、アルツハイマー型が67%、脳血管性が19%、レビー小体型が4%を占めるようになりました。認知症は加齢とともに増加します。80-84歳の17%, 90歳以上の55%が認知症と言われています。
認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究 厚生労働省 2022年度

認知症の診断と鑑別
問診
- 静岡市もの忘れ検診チェックリスト:あてはまる項目がある
- Mini Mental State Examination (MMSE)や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いて問診にて認知機能の評価を行います。MMSEは30点満点の検査で23点以下、HDS-Rは30点満点の検査で20点以下が認知症の疑いになります。
精査
- 認知機能検査
- 血液検査
- 脳脊髄液検査
- 画像検査(CT/MRI検査など) など
専門の医療機関にて認知症の基礎疾患を調べます。この過程で、間違いやすい病態(生理的健忘やうつ病など)でないことを確認し、治療可能認知症を逃さないように調べます。
みたけ内科循環器科クリニックでは、問診を行い認知症の可能性がある方を早期に発見します。精密検査が必要な場合に、適切な医療機関へ紹介させていただきます。

認知症の治療
認知症の治療は薬物だけではなく、その他の治療(非薬物治療)が非常に重要です。早期から治療することで、症状の進行抑制や進行速度の低下が期待できます。
非薬物療法
認知症は本人だけでなく、ご家族の理解・サポートも重要です
- 認知症患者への介入:食事療法、認知機能訓練、認知刺激、認知リハビリテーション、運動療法、音楽療法、回想法、認知行動療法
- ご家族への介入:認知症の学習、スキル訓練、介護者のサポート(燃え尽きやうつ状態を軽減)

認知症の治療
薬物療法
- アルツハイマー型認知症:コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬
- 不安や興奮、幻覚、うつ症状、睡眠障害など認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法
認知症疾患診療ガイドライン 2017年
抗アミロイドβ抗体薬:2023年よりアルツハイマー病による軽度認知障害・軽度の認知症の方に、新たな薬剤の治療が開始されました。2025年6月の時点では点滴投与しかなく、限られた医療機関で行われています。抗アミロイドβ抗体薬投与は精密検査を行い、適応が決定されます。
治療薬:レカネマブ(商品名ケレンビ)、ドナネマブ(商品名ケサンラ)
生活習慣病の治療
糖尿病、高血圧、脳卒中、高コレステロール血症は、認知症の発症に関連します。中年期(45-64歳)は生活習慣病があると、認知症の危険が高まります。65歳以上では、糖尿病と脳卒中をお持ちの場合、認知症の危険が高まります(そのほかの生活習慣病は、認知症の関係性がわかっていません)。

生活支援と介護
認知機能が低下すると、上記の症状により日常生活に影響が出ます。すべてのことができなくなるわけではないため、ご本人の状態に応じた支援を行えば、生活を続けることが可能です。食事や入浴・排泄などの日常生活の介助や見守りは、ご家族の介護負担が増加します。医療・福祉サービスと連携を行い、ご家族がすべての負担を抱えない環境づくりが重要です。